君のチカラで!

ものがたり

To a child important thing

将来の夢…ずっと思い続けてきた強い意思が、ふと弱気になってしまうことだってある。 [◆1◆2◆3◆4◆5

2

「ネス!遅かったわね~今日はあなたの好きなハンバーグ作っておいたから。」
「おにーちゃん、今日はお疲れ様!」

いつもの様に明るく声をかけてくれた二人。でも、それとは対照的に僕の顔は沈んだ顔。さっきはあんな大きな声を出せたんだけどなぁ…

「暗い顔ね…きっと疲れたのね。ママの特性ハンバーグを食べて元気になってちょうだい!!
そしてシャワーを浴びて、今日はゆっくり休みなさい。さぁ、ご飯にしましょう!」

ママはそう言って、再び夕飯の支度をはじめた。あのぱぁと素敵な笑顔を見せて。
―でも…いつものママの笑顔とは違う感じがした。なんて言うか…とびっきりの笑顔だった。
ご飯もシャワーもすませ、僕はベットの中へ潜りこんだ。うーん、やっぱりベットの中は安心するね。
楽しい夢を見て忘れられるといいなぁ…と思った。でもやっぱり思い出すのは。そして…

「もう、僕…野球なんて嫌いだ。野球選手の夢はあきらめよう……」

泣きそうな声で。知らず知らずにそんな事をつぶやいた。だって…今日の事…!
いろいろ考えていくうちに、僕は夢の中へ手招きされるように夢の世界へ入り込んで行った。

………
……………
「よし!いいぞ~ネス。そのままパパにそのボールを返すんだ。」
「うーん、こう?」

―パシッ!!

「おー!!いい線いってるじゃないか!さすがパパとママの子!野球選手も夢じゃないぞ。」
「えっ?ほんとー??」
「あぁ。キャッチボールがこれくらい出来るなら…今度はバッティングやってみよう!」

―あぁ、これは僕が小さい頃、パパとキャッチボールとか野球の事を教えてもらった時の思い出だ…!
懐かしいな…でも、なんで今頃これの事を思い出すんだろう。
僕はぽけーっと、その様子を見ていたけれど、しばらくすると場面が変った。

「ふぅーん。パパも野球選手になりたかったんだ。」
「あぁ。これでも高校の時はレギュラーで結構注目浴びていたんだぞ~。」
「わぁー凄いね!!でも、なんでなれなかったの?」
「うー…思い出したくないなぁ…あの事。でも、ネスには特別に教えてやろうか。
…さっき言った通りパパはなかなかいい感じで野球やっていたんだ。
でも、一番大事な時期に膝を故障…簡単に言えば膝を怪我しちゃったんだよな。
それで練習と試合に出れなくなって…そのままずるずる引きずって、みんなから差をつけられたんだ。
その日からパパはずーんと沈んだ顔で練習やっててさ。みんなからいろいろ言われたもんだよ。
それで結局それ以来、レギュラーには入れなくって。野球選手になれず、フツーに仕事についた。
でも、野球は嫌いにはならなかった。どうしてもどうしても好きだった。
いつか奥さん見つけて、子供が出来たら…絶対に野球の素晴らしさを教えたいと思ったんだ。」
「それで、ママと結婚したんだね!!!」
「はは、そうだな~ママは綺麗だったし…いや、もちろん今も綺麗だぞっ。
ママはな~顔だけではなく、性格も綺麗な人だった。本当に輝いてて、素敵な人だよ。」
「ママ、いつでも明るいからね。あ、パパ顔が赤いよ。」
「そうだ。って、パパのことはどうでもいいじゃないか!うぉーオッホォン。
あのな。ママもいろいろと苦労をしていたみたいだぞ。将来のことで。でも、いつでも笑顔だった。
つらい時ほど、とびっきりの笑顔でパパとか友達に振舞っていた。どんな事にもめげない強い人なんだ。」
「ママって凄いんだね~パパみたいに沈まないんだ。」
「あははは!そうだなーママはパパより強いってことさ。……ケンカも。」
「え?な~に?」
「うわーなななんでもない、なんでもないさ!!ささ、またバッティング練習しようか。」
「??」
「うははー気にするなっ!さぁ、ネス。はじめるぞ~!」

―また場面は変って。

「パパは野球選手になりたかったんだよね。」
「あぁ。でも無理だった。でも、今はちゃんと今の仕事をして、家族を守り、そして支えていく。
それに…ネスに野球の素晴らしさを伝えるのも仕事だな。ま、今達成中だな。」

僕…小さい頃の僕は、じっとバットを見て、しばらく黙っていた。そして。

「僕、野球選手になりたい!ううん…野球選手になるよ!絶対に!!大リーガーになってやるんだ。
さっきパパ言ってくれたよね?夢じゃないって。パパがなれなかった分、僕がなるよ!」
「ネス…それはもしかして、パパのためか?それとも?」
「パパのためだよ!んー…もちろんそれもあるけど…僕、野球すっごく好きだよ!だからなりたい。」

パパは、はぁーと息をついて。そしてニカーと笑った。

「ははははは!そうかそうか。よく言ったぞーネス。…どうやらパパの仕事の一つ。そろそろ終わりそうだな。」
「えー?パパもう野球教えてくれないの?」
「いやいや、そうじゃないさ。そうだ、もう少ししたらオネットの野球チームに入ろう。それがいいな。うんうん。」
「あれ?パパ…泣いてる?」
「あ、これは違うんだ!はは、運動したからな~!汗だよ、汗。男は汗を目から流す動物なんだ。
ん?…これは“ジャパン”の昔のドラマのセリフか。ちょっと古いかな。」
「パパ、さっきからへんなの~!」
「むむ!!このー!言ったなー!!その変なパパの子なんだぞ、お前は!!!はははは!ははは!!」
……………
………


―短かったようで長かった夢だった。僕はむくっと起きあがった。もう、窓からは朝日が差し込んでいる。
朝だ!今日は学校は休みだし…僕はもう一度ベットへ潜りこんだ。

そうか。そうだった。僕はただ単純に野球選手になりたかったわけじゃない。そう。
パパのためでもあった。そして僕。自分自身のために。

―もしここで“野球選手”の夢をあきらめたらどうなっちゃうのかな?
きっと一生懸命野球のあれこれを教えてくれたパパががっかりしちゃうんじゃないかな。
そして、僕もあきらめて最後に野球辞めてしまったら。きっと、きっと後悔すると思う。
パパや僕だけじゃない。ママもトレーシーもチームメイトもコーチも、みんな僕の夢を知っている。
これは………僕の将来、未来がかかった事。みんなの本当の期待。
今日…いや、もう昨日のことか。昨日の試合のことより重要なことではないか。
おかしいな。こうなると、昨日ホームランを打てなかったことがちっぽけに見えてくる。
なんで今頃小さい頃の夢を見たのか。それは大切なことを思い出すためなのかもしれない。
何故野球チームに入った?野球選手になるという夢をかなえるため。パパとの約束を守るため。
僕は寝る前に言ったことを思い出した。“もう、僕…野球なんて嫌いだ。”
違う、それは嘘だ!だってこんなに野球のことを考えてるじゃないか。
好きだからここまで深く悩むんだ。

―僕は泣いていた。でも、笑ってた。複雑な迷路からやっと抜け出した気分だ。
さぁ、朝だ!早いけど、もう起きなきゃ。ベットに潜って悩む必要はないからね。
バッ!と元気よくベットから飛び降りた。んんーと背伸びをする。ごしごしと涙をパジャマのすそで拭いて。
よしっ!だいぶ気が楽になったぞ…!!そして部屋から出る。向かう先は1階のリビングだ。
―ある人に聞きたいことがあったから。

メニュー

WEB拍手

ボタンはランダムで4種類。さぁ何が出るかな?
お返事は後日、日記にてさせていただきます。