君のチカラで!

ものがたり

To a child important thing

将来の夢…ずっと思い続けてきた強い意思が、ふと弱気になってしまうことだってある。 [◆1◆2◆3◆4◆5

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―9回ウラ。5-2で“スリークファイターズ”リード、“オネットリーグ”2アウト満塁で攻撃中…

「ネェェェェェスッッッ!!がんばりなさぁぁぁぁい!!ここでぇぇぇ、どっかーんと打つのよぉぉぉぉ!!!!!」
「おにいちゃーん!がんばって~」
「ネース!ここでホームランぶちかましてくれぇ~!!」
「逆転ホームランだー!!」
「アウトにならなければ、そのままいけるからガンバレェイ!…ネスんちのかぁちゃん、元気だなぁ。」
「勝ったら俺なんかおごってやるから!…俺のママもあんなに美人だったらいいのに。そしたらメシ美味くなるのに。」

ベンチと外野の方で僕を応援する声が聞えてくる。ちなみに最初に大声で叫んでるのは僕のママだ。
次の叫んだのが妹のトレーシー。その後のがチームメイト達だ。
そう!今は野球の試合中。絶体絶命の時、今僕はバッターボックスで立っている。
ありがちなパターンだけど、ここで僕がホームランを打ったら逆転で勝利。
だけど、打たないでそのままアウトまでいけば負け。普通にヒットでもアウトをしたりすれば終わりだし、
ランニングして僕か1塁の人が、ホームに戻れなかったら恐らくそれでも負けになってしまう。そんな状況だ。
ここで打たなきゃ…!!みんながっかりしてしまう。

―ストライクッ!
―ボール
―ボール
―ストライク!!
―ファール!
―ボール!
―ファール
―ファールッ!!

一気に本当の絶体絶命のピンチになってしまった!!!
次の球で僕が打って点数になるかアウトになるか。それともボールになって1点は入るか。

僕とスリーク側のピッチャーは睨み合った。僕もだと思うけど…あっちも恐い。
そしてピッチャーはボールをぎゅっと握り締め、振り上げ…そして!

―ッキィィィーン!!!!

打った…?…打った!僕は「やった!」と思った。僕も他の人もホームランだと思った。けど…

「オーライ、オラーイ。」

―すぽっ。

「ゲェイーームセット!…」


「…えーと、5対2でスリークファイターズの勝ちです。スリークファイターズは…えーと…?えぇーと…
あっ、あ、あった。来月にある州の大会に出ることになりますからね。頑張ってください。」

アンパイアの人がいろいろ説明している中、 スリーク側はニカニカ笑って嬉しそうだ。
僕らは…ずーんと沈んだ顔。そして、今日の試合は終わった。

「ネース、そんな顔するなよぉ!何もお前だけのせいじゃないんだからさ。」
「そうそう!来年もある!あ、それにまた試合が今度あるじゃん!」
「なぁ、お前のかぁちゃん元気だな。なんであんな美人なのに、あんなパワフルなんだ?」
「ネスのママって美人だなぁ。きっとメシも美味いんだろ?今度俺にも食わせてくれよ。」

チームメイトは僕を励ましてくれた。若干2名、僕のママの事ばっかり言ってるけど。
彼らだけではなく、コーチもこう言ってくれた。

「ネス、そう気を落とすな。お前の気持ちも分かるが、あいつらの言う通りお前だけのせいじゃない。
確かに一人の失敗は大きい。一人が失敗したらみんな失敗する。
けど…けどな?野球というものはチームでやるゲームなんだ。だからお前のせい、あいつらのせい、俺のせいなんだよ。」

コーチの一生懸命慰めてくれた。けど、その時の僕には「チームでやるゲーム」よりも…
「一人の失敗は大きい。一人が失敗したらみんな失敗する。」の方が心にズシンと突き刺さったんだ…

僕は外野の方へ目をやった。さっきまで大きな声で応援してくれたママと妹の姿はなかった。
きっと呆れて帰っちゃったんだな。僕はそう思った。僕は、はぁぁぁっと深い溜息をつきながらグランドを後にした。
良く考えれば、野球チームに入ってから僕は特に活躍をしていない。
今日の試合の前にホームランを一本打ったから、今回最後の最後で打つことになったんだけど。
僕はみんなの期待にこたえられなかった。ホームランを打てなかった。

「僕、野球選手になるよ!絶対に!!大リーガーになってやるんだ。」

いつか、学校でそして家で言ったこの言葉。小さい頃からの、大きな夢。
…もしかしたらもうこの夢はあきらめた方がいいのかもしれない。
最後の最後でプレッシャーに負けて、あんな風になってしまったのだから。
きっと野球選手になっても、駄目な選手になってしまうに違いない。
家路はずっと今日のことそして野球選手への夢のことを考えていた。悪い方向へと。

家に着いた。ペットのチビが僕に気づいて尻尾を振りながらこっちへ来る。
僕が小さい頃、いや生まれる前からこの家で飼ったいる大きなムク犬だ。

「ただいま、チビ。お前はいいよなぁ。いつも家にいて、気楽で。」

チビは「なんだと?これでも番犬…だからな!」と言った。
いや、そんな風に言いたそうに顔をしかめた。
ドアの前に立つ。家にはさっき応援していたママとトレーシーがいる。
明るい二人の事だから、いつものように接してくれるのだろう。
でも、でも。心の中では今日の僕のことをどう思ってるのかな…?きっと…
僕はぶんぶんと頭を振った。つばをゴクリとのみ、ドアを開けて、

「ただいまぁ!」

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